2018.11.25身の丈80cmのキャンプ名人

世の中には、本当にため息が出るほどキャンプを楽しむ事が上手な人が居ます。眼に見える物、耳に届く物、鼻に、髪に、両手に、全てに「楽しい」を感じる人が居ます。それは、楽しみを見つける事を長年続けて来た人に限りません。私は、身の丈80cm程のご婦人の中にも、そんなキャンプ名人を見かける事が有るのです。

道端でしゃがみ込み、潰れた柿と電柱のカラスを交互に見たご婦人が、「カラスのごはん」と、寂しそうな表情をしています。私は、近くのコンビニそとの喫煙コーナーで珈琲を啜って居ます。ご婦人は、しばらく柿とカラスを見つめ、トコトコと走って行きました。暫くして、私が読みかけの本から目を上げると、両腕一杯に枯葉を抱えたご婦人が戻って来たところでした。彼女はそれを柿の実の周りに置き、小さな体を揺らしては様々な角度から眺めて調整して居ます。私の紙コップからは、最後の珈琲が無くなりましたが、この光景を見ていたいと思い、お替りを購入する為にレジ待ちの列に並びます。

その後彼女は、恐らくカラスの為に作ったそのオブジェを完成させ、カラスの事をすっかり忘れて満足げに帰って行きました。二杯目の珈琲をとおに飲み終えた私は、しばらくその柿と落ち葉に見惚れていました。スーツ姿のサラリーマン、作業着姿の作業員、買い物途中の主婦、自転車の学生が通り過ぎる道端です。カメラを構える事も出来ませんでした。でも、その瞬間そこは、まぎれもなく身の丈80cmのキャンプ名人がソロキャンプをしていました。

落ちていた柿と通りすがりのカラス。そこから感じた物語と、湧いてきた創作意欲。名人のキャンプには道具は不要なのでしょう。クリクリと良く動く目は、私の想像をはるかに超えた多くの物を見て、感じているのです。私は、伏せていた本を鞄に仕舞い、河原の道を遠回りして帰ろうと思うのでした。